再考 – 内部統制評価制度

財務報告に係る内部統制評価を効果的かつ効率的に行うためのポイント
~ 業務プロセスにおける内部統制の整備状況の有効性の評価 ~

はじめに

2015年4月に発覚した東芝の不適切会計問題は、それまで築いてきたブランドイメージを著しく毀損させました。外部会計監査人が発見できなかったことの責任に対する議論もありますが、適正な財務諸表を作成する責任を有するのは各企業自身であり、不適切な会計処理を行った責任はあくまでも各企業にあります。信頼できる財務報告を作成するためには、細分化され複雑になった各業務において必要な情報が正しく伝達され、正しい会計処理がされるように内部統制を整備・運用し、これを評価する体制を築く必要があります。
我が国では2006年の金融商品取引法成立によって内部統制報告制度(日本版SOX法)が導入されました。同制度では、経営者は内部統制の有効性を評価して内部統制報告書を作成し、外部監査人がその報告書を監査することとなっています。内部統制の有効性評価が適切に行われていれば企業が会計不祥事を起こすリスクは相当程度低くなると考えられますが、同制度の導入から複数年が経っていますので、評価が形骸化してしまっているケースもあるのではないでしょうか。また、各企業が内部統制の有効性評価に投入できる資源には限りがありますので、リスクに応じて適切に資源を配分する必要もあります。
ここでは、内部統制の有効性評価を効率的かつ効果的に実施するための主なポイントについて、企業における各業務プロセスの評価を実施する評価担当者の目線でもう一度再点検したいと思います。

内部統制報告制度

日本国内の上場企業は、平成18年6月に成立した金融商品取引法により、財務報告に係る内部統制の経営者による評価(金融商品取引法24条の4の4第1項)と公認会計士等による監査(金融商品取引法193条の2第2項)が義務づけられています(以下、「内部統制報告制度」)。

ただし、公認会計士等による監査に関しては、2014年5月に成立した「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成26年法律第44号)により、新規上場後3年以内であれば監査が免除されることとなりました(金融商品取引法193条の2第4項)。

内部統制報告制度は、「財務諸表作成者、監査人その他の関係者にとって過度のコスト負担をかけることなく内部統制を整備することを目指している(平成23年3月公表「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」)」こともあり、上場企業各社においては、内部統制の有効性を保ちつつも、企業の状況に応じて効率的に内部統制の評価を行うことが可能です。
内部統制は、全社的な内部統制か各業務プロセスにおける内部統制かによって、整備・運用状況の有効性評価方法は異なりますが、ここでは、業務プロセスにおける内部統制の評価が効果的であることを保ちつつ、効率的に実施するために、評価担当者が留意すべきポイントを記載します。

整備状況の有効性評価における留意点

整備状況の有効性評価においては、各部署の担当者に対してヒアリングや資料の閲覧等を実施することで、内部統制が財務諸表上の重要な虚偽記載を防止・発見できるように適切に設計され、実際に業務に適用されているかを検証します。
この段階においては、ヒアリングを多数の各部署担当者に対して行う上に膨大な資料を閲覧することとなるため、評価する側の負荷が大きいだけではなく、評価される側にも資料の準備やヒアリングへの対応に負担がかかります。
したがって、評価担当者は、事前に、実施すべき手続きや評価における留意点を適切に把握して無駄な作業を失くし、効率的な評価を実施することが重要です。

ポイント留意点 1 整備状況の有効性評価を実施する時期

① 内部統制に不備が発見された場合の是正期間を考慮する
② 評価対象部署の繁忙期をさける
③ 外部会計監査人の日程に合わせる
④ 期末日に内部統制が存在しないことが明らかであれば、評価の必要はない

留意点 2 評価担当者は事前準備をしっかりしておく

① 事前に評価対象となる業務フローを特定しておく
② 事前に対象業務の概要の理解しておく
③ 整備状況の有効性評価の省略を検討する

留意点 3 部門横断的な評価を実施する
留意点 4 適切なキーコントロールを識別する

① 内部統制と単なる活動を区別する
② 運用状況の有効性評価を効率的に実施できる内部統制を識別する
③ 全体的な観点からキーコントロールの識別が適切か確認する

留意点 1 整備状況の有効性評価を実施する時期
整備状況の有効性評価を実施する時期は、主に以下を考慮して決定するのが有用と考えます。
① 内部統制に不備が発見された場合の是正期間を考慮する

内部統制報告制度では、経営者による内部統制評価は期末日を評価時点として行います。そのため、期中に内部統制の不備が発見されても、期末日までに当該不備が是正され、期末日においては内部統制が有効であると評価できれば特段問題はありません。
したがって、基本的には、不備が発見された場合の是正期間を考慮した評価時期を設定する必要があります。ただし、前期の評価結果が有効であって当期においても内部統制に変更はなく、不備が発見される可能性が低いのであれば、期末日近くに評価を実施することもできます。

② 評価対象部署の繁忙期を避ける

内部統制の評価作業は、各部署が通常業務を行う中で実施されることがほとんどです。評価対象部署の通常業務が忙しい時期に評価作業を行った場合、質問への回答や資料の提出が遅くなるだけでなく、評価対象部署との関係が悪化して必要な協力が得られなくなる虞もあります。したがって、設計評価を行う時期は、各部署の繁忙期をできるだけ避けて設定する必要があります。

③ 外部会計監査人の日程に合わせる

外部会計監査人も経営者の作成する内部統制報告書を監査する立場から、評価対象部署に対して直接ヒアリングを行います。外部会計監査人とは別の日程で企業内の評価担当者がヒアリングを実施するのは、評価される側にとって二度手間であり効率的ではありません。
事前に外部会計監査人とヒアリングの日程調整をして同時にヒアリングを実施することが重要です。

④ 期末日に内部統制が存在しないことが明らかであれば、評価の必要はない

内部統制報告制度では、経営者による内部統制評価は期末日を評価時点として行いますので、変更されて期末に存在しない内部統制を評価する必要はありません。
ただし、期中に行われた組織変更や事業譲渡などにより、期末日には存在しない子会社や事業部に係る業務プロセスについて、当該子会社等の計上した損益や譲渡等に伴う損益等が連結財務諸表に重要な影響を与える場合には、連結財務諸表を作成する親会社の決算・ 財務報告プロセスにおいて、期末日には存在しない当該子会社等に係る損益等を適切に把握するための内部統制を評価することが必要になるものと考えられます(内部統制報告制度に関するQ&A 問73)。

留意点 2 評価担当者は事前準備をしっかりしておく
整備状況の有効性評価においては、評価担当者の事前準備次第で、かかる手間と効果が大きく変わってきます。
① 事前に評価対象となる業務フローを特定しておく

各部署内には、日々の業務を遂行するために既に多くの内部統制が存在しており、その中には財務報告には直接関連しない内部統制も含まれます。内部統制報告制度に基づく内部統制評価はあくまでも財務報告にかかるものを対象としていますので、財務報告に関連しない内部統制は評価の対象とする必要はありません。
一方で、各部署は複数の担当者において複数の業務を行っている場合が多く、評価される側は必ずしも自身のどの業務が財務報告に関連しているかどうかを認識しているわけではありません。評価する側の事前準備が不十分な場合には、必要のない業務についてヒアリングを行ってしまった上、必要のない資料を依頼し、ヒアリングすべき業務については、何も情報を得られなかったということになりかねません。
したがって、評価担当者はヒアリングを実施する前に、評価対象部署のどの業務フローを対象にヒアリングするかを業務記述書やフローチャート等で確認し、ヒアリングにおいては、評価担当者が主導して進めていくことが重要です。

② 事前に対象業務の概要の理解しておく

評価担当者は、過去に評価される側の業務経験がある場合や長年その業務プロセスを評価している場合は別として、基本的には評価される側の業務の詳細までは把握していません。
評価対象の基本的な業務知識がないままヒアリングを行っても、効果的なものとはなりませんので、業務記述書やフローチャート等を事前に読み込んで、業務の概要や基本的な用語等を理解しておくことが重要です。

③ 整備状況の有効性評価の省略を検討する

内部統制評価制度に関連する実施基準においては、前年度の評価結果が有効であり、整備状況に重要な変更がない場合には、その旨の記録をすることで、前年度の評価結果を継続して利用することができることとされています(財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準Ⅱ.3.(3)③(注))。
ただし、財務報告の信頼性に与える影響の重要性を勘案し、特に重要な影響を及ぼすものについては、省略することはできません。具体的に「特に重要な影響を及ぼすもの」であるかどうかは各企業の実態に応じた判断が必要になります。

留意点 3 部門横断的な評価を実施する
組織規模が大きく組織構造が複雑であるほど業務は細分化され、関係部署が増えていきます。各部署の個別業務における内部統制の整備状況の有効性評価では必要な内部統制が整備されているように見えても、本来評価すべき業務プロセスの一部が欠けていたり、各部門の職務分掌の狭間で重要な内部統制が抜け落ちている可能性があります。
評価対象の業務プロセスにおいては、取引の開始から会計計上までを漏れなく把握することが重要となり、それには、ウォークスルーを実施することが有用です。

ウォークスルーとは
取引の開始から取引記録が財務諸表に計上されるまでの流れを以下に記載の内部統制の記録等により追跡する手続

arrow 重要な勘定科目や開示項目に関連する業務プロセスの概要

  •  各業務プロセスにおけるシステムに関する流れやITに関する業務処理統制の概要
  •  使用されているシステムの一覧など

arrow 各業務プロセスにおいて重要な虚偽記載が発生するリスクとそれを低減する内部統制の内容

  •  実在性、網羅性、権利と義務の帰属、評価の妥当性、期間配分の適切性、表示の妥当性との関係
  •  ITを利用した内部統制の内容等

arrow 上記に係る内部統制の整備及び運用の状況
arrow 財務報告に係る内部統制の有効性の評価手続及びその評価結果並びに発見した不備及びその是正措置

  • 評価計画に関する記録
  • 評価範囲の決定に関する記録(評価の範囲に関する決定方法及び根拠等を含 む。)
  • 実施した内部統制の評価の手順及び評価結果、是正措置等に係る記録

このウォークスルーは、整備状況の有効性評価において必須の手続きではありませんので、必ずしも実施する必要はありません。業務プロセスの複雑性や前年度までの理解と評価結果を踏まえ、業務プロセスの理解に漏れがある可能性があれば実施したほうがよいでしょう。
留意点 4 適切なキーコントロールを識別する
各部署で識別した内部統制はすべてが運用状況の有効性評価の対象ではなく、財務諸表上の虚記載リスクを効果的に低減するキーコントロールを識別した上で、運用状況の有効性評価を実施します。
必要なキーコントロールが特定されていない場合、当該業務プロセスの評価が適切に行われない可能性がある一方で、不必要なキーコントロールの選定は、のちの運用状況の有効性評価における作業量を増やしてしまい効率性を阻害します。
なお、キーコントロールの識別の妥当性は監査人による検証対象であるため、前年度から大きくキーコントロールを変更する場合には、監査人と協議を行うことが望まれます。
① 内部統制と単なる活動を区別する

内部統制報告制度上は、財務報告に関連した虚偽記載が発生するリスクを低減する活動が内部統制であり、その他の業務は単なる活動です。
例えば、財務諸表上の売上の実在性・網羅性に関するリスクの一つである「受注入力の金額を誤るリスク」については、担当者が注文書に基づいて販売管理システムに入力するのみでは当該リスクを低減しないので内部統制として機能しませんが、販売責任者が注文書と出荷指図書を照合し承認するという活動はこのリスクを低減する内部統制として機能します。
業務が複雑で適切な内部統制が見つからない場合には、単なる活動をキーコントロールとしてしまう可能性があるため注意が必要です。

② 運用状況の有効性評価を効率的に実施できる内部統制を識別する

arrow 特定のリスクに対して複数の内部統制が存在する場合には、運用状況の有効性評価を効率的に実施できる内部統制をキーコントロールとします。例えば、日次で実施される統制よりも月次で実施される統制の方が運用状況の有効性評価におけるサンプル件数が減少するため、効率的な評価の実施が期待されます。ただし、当該リスクを十分低減できるほどの内部統制でない場合には、キーコントロールとしては適切ではありませんので注意が必要です。

arrow 特定の内部統制が複数のリスクをカバーしている場合、当該内部統制をキーコントロールとすることで、評価すべきキーコントロールを減らすことができ、運用状況の有効性評価における作業量が減少します。

③ 全体的な観点からキーコントロールの識別が適切か確認する

識別されたキーコントロールを一覧化した上で全体的な観点から見直しを行うと、必要なキーコントロールが抜けていないかを確認できることはもちろん、キーコントロールの重複を発見しキーコントロールの削減にも役立ちます。

あとがき

今回は、業務プロセスに関する整備状況の有効性評価において、各企業の評価担当者が留意すべきポイントを記載しました。各企業が内部統制評価に投入できるリソースには限りがあるため、限られたリソースで余計な手間をかけずにポイントをおさえた効果的な内部統制評価を実施することが鍵となります。
加えて、全社レベルの統制評価や運用状況の有効性評価並びに評価結果の報告段階においても、留意すべきポイントは数多くあります。本書が内部統制評価制度を再考する際の一助となれば幸いです。

本資料は概略的な内容を紹介する目的で作成されたもので、プロフェッショナルとしてのアドバイスは含まれていません。個別にプロフェッショナルからのアドバイスを受けることなく、本資料の情報を基に判断し行動されないようお願いします。本資料に含まれる情報は正確性または完全性を、(明示的にも暗示的にも)表明あるいは保証するものではありません。また、本資料に含まれる情報に基づき、意思決定し何らかの行動を起こされたり、起こされなかったことによって発生した結果について、マカロニアンドマネジメント株式会社および 役職員は、法律によって認められる範囲においていかなる賠償責任、責任、義務も負いません。

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